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第17話 陽気な町「ビジャホジョサ」 

著者:三澤三貴子(Photographer MIKIKO MISAWA)

アラベスク文様の手帳から・・・インデックスへ戻る

初稿公開日:2015年10月5日

夏が過ぎて

24579
海鳥(カディス) 24579

暑かった夏も過ぎ、
賑わいを見せた海辺も
静けさを取り戻し、

13575
真夏のひまわり畑(ソリア) 13575

また太陽を浴びて
元気に咲いていたひまわりも、

24535
収穫前のひまわり(ソリア) 24535

ご覧のように
9月の下旬には
すっかり花は乾燥して
あとは収穫を待つばかり。

いつの間にか目に入る景色も
秋模様となりましたね。

16926 麦畑
麦畑(ラ・マンチャ地方) 16926

第16話のラスト・シーンでは
スペイン東部、
200㎞以上続く地中海の海岸線
Costa Blanca(コスタ・ブランカ)の
Jávea(ハベア)の海をご紹介致しました。

夕暮れ時の刻々と変化していく景色は
気に入って頂けましたか。

15236 ハベアの夜景
ハベアの夜景(ハベア バレンシア) 15236

さて今回は、
マドリードのお話をお休みしまして
ハベアから更に南西60㎞に位置する
Villajoyosa(ビジャホジョサ)の町をご紹介致します。

4215 
地中海道路(ハベア-カルペ間) 4215

ハベアの美しい自然の景色に対して
ビジャホジョサの町では
どのようにお話が
展開されていくのでしょうか。

爽やかな秋の季節、
写真と共に語る
地中海の旅のお話に
おつきあい下さればとても嬉しく思います。

23152 
踊る少女(ビジャホジョサ) 23152

それではどうぞ
ごゆっくり楽しみ下さいね...♪

Costa Blanca(コスタ・ブランカ)の町・ビジャホジョサ

ビジャホジョサの海岸 4243
ビジャホジョサの海岸 4243

ビジャホジョサを訪れたのは
かれこれ5,6年ほど前の
7月最後の週の事でした。

21280 
ビジャホジョサの旧市街 21280

町へ到着すると
往路の地中海高速道路を走る間、
車窓から見え隠れしていた
きらきらと輝く碧い海が見たくなり、
すぐさま浜辺へ向かいました。

23617
椰子の木のある海岸(ビジャホジョサ) 23617

浜辺には
椰子の木々が茂っています。

23668
椰子の木陰(ビジャホジョサ) 23668

木陰へ入ってみましたら
足下にはひんやりした砂があり、
また吹く椰子の葉風が
肌を撫でていき、
居心地の良い場所でありました。

更に波打ち際まで行ってみるとどうでしょう。

22936
波(ビジャホジョサ) 22936

寄せては返す波。
そして浜に砕けた波が広がっていくさま。
無数の泡が弾けていく微かな音。
また素足で歩き出せば
引き波が足裏の砂を次々と奪っていく
得も言われぬ感覚が伝わってくる...。

海辺にはこうした人の感覚を
刺激する要素が溢れているのですね。

23623
浜辺(ビジャホジョサ) 23623

しかし自然の恵みによって
心が癒されていたのも束の間、

まもなく脳裏に浮かんだのは、
旅の下調べで得たこの地の、
そして地中海沿岸に於ける
歴史だったのです。

4035
「モーロ人とキリスト教徒のお祭り」での海賊の旗: Petrer(アリカンテ県) 4035

それは
「沿岸全ての地域の住民が
海賊の襲撃に苦しんだ歴史」。

今度は複雑な思いで
あの水平線を
眺めることになってしまいました。

23620
砂浜(ビジャホジョサ) 23620

ところで
ここビジョホジョサでは、
過去の歴史を記憶に留めようと
毎夏、海賊に纏わる史実を
元にしたお祭りが催されます。

22644
海賊に扮したお祭りの参加者(ビジャホジョサ) 22644

スペインの旅先で、しばしば
「今度来られる時があったら
是非ともお祭りの時にいらっしゃい。
飾り付けが施された村はそれはとても綺麗だし、
また普段と違う村の姿を知って欲しい」と、
勧められる事があります。

23576
ビジャホジョサのお祭り 23576

そうですね。
確かにその通りだと思います。

その様なわけで、今回のお話は、
ビジャホジョサのお祭りを中心に
進めていきたいと思っています。

陽気な旧市街の外観

21262
ビジャホジョサの旧市街 21262

お祭りを楽しむには
どのような村や町なのかを
知らなくては
それこそ本末転倒です。

まずはお祭りの前に
この町の旧市街の人々や
路地の表情をご紹介していきましょう。

アマドリオ川 21200
アマドリオ川(ビジャホジョサ) 21200

ここは旧市街の横を流れる
アマドリオ川。

ビジョホジョサの町は
沿岸部の肥沃な場所にあります。

アマドロス川を渡る列車 21203
アマドリオ川を渡るトラム(市街電車 ビジャホジョサ) 21203

そして
向こうの橋を渡っているのは、
コスタ・ブランカの沿岸都市
Dénia(デニア)~Alacant(アラカント、又はアリカンテ)間を走る
トラム(市街電車)。

トラムが走るAltea(アルテア)駅入り口 24544
トラムが走るAltea(アルテア)駅入り口 24544

この路線は市街地の中や
海岸線を走るトラムですが、

Altea(アルテア)駅に停車中のトラム 24574
Altea(アルテア)駅に停車中のトラムと旧市街(後方) 24574

滞在中一区間でも
乗車してみたいと思いつつ
運行本数の関係上
実現しなかったのが残念でした。

21205
お祭りのユニフォームを着た女性達(ビジャホジョサ) 21205

さて
橋を渡って程なくしますと、
右手に旧市街の
初期のルネサンス様式の塔や城壁、
また城壁内には教会の鐘楼が見えて来ます。

21213
ビジャホジョサの旧市街の城壁(右) 21213

ご覧になれますか。
強固な円形の塔の右手には
ぴたっと寄り添うように
住居の一部が接合されています。
このような工夫がなされたのは
もちろん海賊対策の為でした。

さぁ、それでは坂を降りながら、
旧市街の歴史や建造物について
さらっと触れておきましょうか。

21
“Iglesia de Nuestra Señora de la Asunción” 「聖母被昇天教会」の鐘楼と手前の城壁 21

城壁内右手、
時計付きの塔がご覧になれますか。

23676
教会の鐘楼(ビジャホジョサ) 23676

この塔は
町の守護聖人聖女マルタに捧げられた
「聖母被昇天教会」の鐘楼で、
堅牢な造りであるのは
要塞を兼ねていたからです。

また城壁も
16世紀になって再建されたのは
度重なる海賊の襲撃に備えるよう
更に強化する必要に迫られた為でした。

21236
城壁のある旧市街通り(ビジャホジョサ) 21236

また壁の裾野が広く、
傾斜や厚みを持たせているのは
敵の弾丸を避け、
またダメージを少なくする目的です。

23664
城壁のある旧市街通り(ビジャホジョサ) 23664

城壁は東と西側のみが
保存されていますが、

かつては
アマドリオ川の岸に面したお城を含め、
旧市街をぐるりと囲んでおりました。

21207
川岸の城壁に建てられた家並み(ビジャホジョサ) 21207

現在の旧市街とは
海岸に面した家々を含んだ地域ですが、

それは17世紀末以降になって
海賊が出没しなくなり、徐々に城壁の外へ
町が拡張されていった事を物語っているのです。

21126
城壁外の旧市街通り(ビジャホジョサ) 21126

さて、お話ししているうちに
坂道はいよいよ細くなってきましたが、

21132
ペンキで塗られた住居建物(ビジャホジョサ) 21132

海岸に出るすぐ手前で
休日を過ごす
家族三人に出会いました。

21131
若い家族(ビジャホジョサ) 21131

しゃがんだ姿勢で
手作業中のご主人に近づく奥さん。

キティちゃん柄の
ワンピースを着た彼女は、
お子さんをだっこしながら
「あれぇ?」と、人の気配を感じ、
こちらを振り向きます。

21131-1
母と子(ビジャホジョサ) 21131-1

肩越しにこちらを見つめる女の子。
そのつぶらな瞳の持ち主は、どうやら
お昼寝から目覚めたばかりの様子。

「こんにちは~♪」と近寄って、
声をかけたいと内心思いつつ、
でもこんな時はやはり
お母さんにお任せが一番ですよね...。

21133
海岸通り(ビジャホジョサ) 21133

海岸通りに到着です。
長方形の積み木を順々に置いたような、
また、いかにも子供達が喜んで選びそうな
明るい色の組み合わせはつとに有名です。

訪れる大人の心でさえも
陽気にしてくれそうではありませんか。

21245
旧市街の眺め(ビジャホジョサ) 21245

この伝統的な家並みには特徴があって
家の前面の外壁、つまりファサードに
青や黄色、ローズに水色などが
塗装されている事なのです。

Altea(アルテア)の旧市街の家並み(コスタ・ブランカ) 24562
Altea(アルテア)の旧市街の家並み(コスタ・ブランカ) 24562

一般的な
地中海沿岸地方で見られる
白壁の家並みと異なり、

21254
旧市街の眺め(ビジャホジョサ) 21254

旧市街の町並みは、
「ビジャホジョサ色」とでも表現しましょうか。
その多くは窓に白い縁取りをし、
どの家の色も
海や空にとても調和しています。

21250
旧市街の眺め(ビジャホジョサ) 21250

ところで
明るい、陽気な話題がもう一つあります。
それは町の地名の意味も
ファサードの配色と同様に、
「明るい町」、又は「陽気な町」なのだそうです。

地元の人々はこの町を
La Vila Joiosa(ラ・ビラ・ホイオサ)と
現地で話される言語「カタルーニァ語」、
(又は「バレンシア語」とも)で呼びます。
因みに「ビジャホジョサ」の呼び名は
標準スペイン語(カスティージャ語)です。

21252
窓辺の女性(ビジャホジョサ) 21252

あら...?
陽気な色や地名に話題を振ってばかりで、
うっかりして大事なご説明を忘れるところでした。

それは
「何故ファサードを色ペンキで塗るのか」。

24563
漁船と魚の壁画(アルテア) 24563

種を明かせば「なるほどね」と、
お答えが返ってきそうな理由ではありますが、
実はここは伝統的な「漁師さんの地区」。

自分の船を塗った後、余った塗料を利用し、
沖から自分の家を判別出来るように
塗装したと伝えられています。

21253
工房の看板(ビジャホジョサ) 21253

色分けに関連したその他のお話として、
バルコニーに掛けられた
「家族からの伝言」も伝えられています。

現在では海を眺める
特等席となったバルコニーですが、
以前は沖から伝言を見分ける為に、
ファサードの色分けをしたと言われています。
その内容とは何だったのでしょうかね。

21336
窓辺の女性(ビジャホジョサ) 21336

旧市街を歩く

それでは海辺に広がる
カラフルな建物を堪能して頂いた後は、
旧市街の中をご紹介していきましょう。

21309
旧市街の町並み(ビジャホジョサ) 21309

こちらを訪ねたのは
午後から日没前にかけての時間でした。

21271
旧市街の町並み(ビジャホジョサ) 21271

勾配のついた
坂道に立っている少年。

そして彼の背後には、
椅子を出している奥さんが二人います。

21271
旧市街の町並み(ビジャホジョサ) 21271

その坂を上りながら
連なるバルコニーを眺めては、

21328
旧市街の町並み(ビジャホジョサ) 21328

お隣さん同士が声を掛け合う姿を想像し、

21304
夕涼み(ビジャホジョサ) 21304

ここは和気藹々とした

21283
夕涼み(ビジャホジョサ) 21283

人との
ふれあいがある地区かもしれないと
感じ始めていました。

旧市街の町並み(ビジャホジョサ) 21318
旧市街の町並み(ビジャホジョサ) 21318

こちらには
戸口前に腰掛ける年配の婦人と男の子。
そして二階には
仲良くくつろぐカップルの姿が見られます。

そして中央に建つ住宅。
こちらも一緒にご覧下さい。
よーく見れば傾いていませんか、左へ少し(笑)。
そうです、ほんの心持ちですけれど。
全体的に、ほのぼのとした印象になっているのは
住人の皆さんとこの建物のおかげですね。

21290
子供達(ビジャホジョサ) 21290

こうして外に出て
ご近所の人達と会話をしながら
夕涼みの習慣があるのは、

21308
世間話(ビジャホジョサ) 21308

湿気が非常に多く、
スティーム・サウナのような
気候だからでしょう。

21314
旧市街の町並み(ビジャホジョサ) 21314

この町へ到着して車から降りた際、
あまりの湿気の多さに驚き、
またじっとりと体に纏わり付く衣服に、
『しまった!彼女達のように短パンにしておけば...』と、
後悔してしまったほどでした。

17056
夏のラ・マンチャ地方の田園風景 17056

スペインも内陸地ですと
乾燥した夏になります。
汗がすーっと肌から蒸発していくのが
感じられるような暑さと
表現すれば良いでしょうか。

焼けつくような大地では草木もからからで、
目につくのは乾燥に強い
タイムのような草ばかり。
暑さも地方によって様々です。

21281
聖女マルタの絵タイル(ビジャホジョサ) 21281

ところで
少し前から散策していて
気がついていたのですが、

何カ所かの外壁に
宗教的な絵タイルがありました。

21266
絵タイルが掲げられた家(ビジャホジョサ) 21266

向こうの
灰色の扉の上にも見えますね。
絵タイルに描かれているのは
町の守護聖人である
聖母マリアの姉「聖女マルタ」。

でも、よく見えませんから
もっと拡大してみましょうか...。

21275
聖女マルタ(ビジャホジョサ) 21275

背景はこの町と海の風景。
そこに出現した聖女マルタが、
左手には灌水器(かんすいき)、
そして右手には灌水棒(かんすいぼう)を持ち、
聖水を散水しているようですね。

この絵から想像出来るように、
聖女マルタと
この町に纏わる伝説が存在します。
一体どんな事が起こったのでしょうか。

24038
海賊達 24038

伝説によりますと、
1538年7月29日の夜中、
城壁で囲まれたビジャホジョサの町へ
大規模な攻撃を仕掛けようと
海賊が沿岸に現れたのでした。

22933
波(ビジャホジョサ) 22933

それはアルジェを拠点とする
ベルベル人海賊(バルバルア海賊)の総統であり、
また後に王となったZallé Arraezが率いる
数十艘のガレー船の艦隊だったのです。

スクータと老人(ビジャホジョサ) 21274
スクータと老人(ビジャホジョサ) 21274

そこに聖女マルタが出現し、
町を守る為に海にテンペスト(嵐)を起こして
敵船を徹底的に
破壊する手助けをして下さったのだと
伝えられています。

21527
旧市街の通り(ビジャホジョサ) 21527

聖女マルタの伝説を語り終えたところで、
旧市街での散策の終わりは、
中心部にある市庁舎へ向かって
歩いていくことにしますね。

21528
通りのフラメンコ(ビジャホジョサ) 21528

あら?何でしょう。あそこです。
道でどなたかフラメンコを踊っているようですよ。
ほら、あそこです♪
彼女の軽快な口三味線から察するに
あれはフラメンコのルンバですよ、きっと。

21535
お祭りの旗を掲げる窓(ビジャホジョサ) 21535

踊りに誘われて、
ついついお祭りの旗が掛かる
お宅の前まで来てしまいました。

こちらは先ほどのご婦人方...。

21538
談笑する婦人達(ビジャホジョサ) 21538

「こんにちは!」と、挨拶するかしないうちに、
踊っていた女性から返ってきた言葉は
「あなたも一緒に踊らない?」
お祭りですもの、
皆さん浮かれ調子♪

ショー・タイムが終了して一段落つくと、
この家の奥さんが
こちらが手にしていたカメラに気がついて、
「ねぇ、ねぇ、ちょっと!家の中へお入りなさいよ。
昔の町の写真があるから見ていったらどう?」と、促してきました。

21533
旧市街の一般家庭の玄関(ビジャホジョサ) 21533

「ありがとうございます。でも...良いのかしらねぇ」と、
躊躇する素振りをしていますと、
もう有無を言わせぬ雰囲気(笑)。
では折角ですから、
お言葉に甘えて玄関内を拝見。

内部は施錠できる階段正面の白い扉と、
珍しく鉄格子が嵌め込まれた右手の壁に
風通し対策が施されていました。
そして、肝心のお写真はと言うと...。

21531
町の写真(ビジャホジョサ) 21531

ああ、こちらの壁です。
折角ですから簡単にご説明致しましょう。

時代は写り込んでいる乗り物の形態や、
人々の服装から察するに
概ね1950~1960年代頃でしょうか。

教会の塔や建物が見える広場の賑わいや、
砂浜で長い漁網を修理する
麦わら帽子姿の地元女性など、
当時の暮らしを知る事が出来る貴重な写真でした。

21516
ビジョホジョサの市庁舎 21516

ご婦人方にお礼を述べた後、
この楽しい出会いの余韻を
背中全体で感じながら歩いておりましたら、
まもなく小ぶりで
瀟洒な市庁舎前に到着です。

21523
市庁舎付近の眺め(ビジャホジョサ) 21523

市庁舎脇に
小さな広場を見つけましたので
行ってみますと...、

21512
噴水(ビジャホジョサ) 21512

辺りを見回しましたが広場には誰もいません。

21517
ツバメと婦人(ビジャホジョサ) 21517

つい先程まで
犬の散歩に来た婦人が、
道に落下したツバメの雛を
そっと手にして遠ざかっていったきりです。

あとは
しーんと静まりかえった中で、
ちょろちょろと聞こえてくる
噴水のかわいい水音だけ。
そちらにも聞こえてきましたか。

21539
木陰とベンチ(ビジャホジョサ) 21539

素敵な木の下に
色違いのベンチを見つけました。

さあ、旧市街のご紹介も
この公園までにして
休憩に致しましょうか...。

***  ***  ***  ***  ***  ***  ***

休憩所「花の庭」へようこそ

第一部のお話が終了いたしました。
ご覧頂きましてありがとうございました。
ここで一旦
「休憩時間」のご案内をさせて頂きます。

20617
蜂と紫陽花(東京) 20617

この先続けてご覧になる方、
また時間を置いてから
第二部をご覧になる方と
両方いらっしゃると思いますが、

どちらの方もこちらで
気分転換をなさって下さいね。

20623
紫陽花(東京) 20623

この後もボリュームがありますので
休憩所はもう一度設けています。
尚、恐れ入りますが
いつものように
休憩時間の長さに関しては
ご自身で設定下さいますよう
お願いいたします。

20631
紫陽花(東京) 20631

それではこれより第二部、
お祭りの様子をお届け致します。

***  ***  ***  ***  ***  ***  ***

ビジャホジョサの夏祭りの特徴

スペインのお祭りの歴史は
中世に始まったと言われています。

22613
パレードの出発(ビジャホジョサ) 22613

250年以上の歴史がある
ビジャホジョサの
“Las Fiestas de Moros y Cristianos”
「モーロ人とキリスト教徒の祭り」は、

毎年7月29日の町の守護聖人
「聖女マルタ」を讃えた
聖体行列を挟んで8日間行われます。

22617
パレード(ビジャホジョサ) 22617

現在では
モーロ人とキリスト教徒の祭りは、
スペイン全土で多く見られますが、

21342
ビジャホジョサの海 21342

よく知られているのは
ここバレンシア州アリカンテ県の
市町村で行われるお祭りです。

23504
お祭の幟 : 三日月はモーロ人のエンブレム 23504

このお祭りの特徴とは、
いずれの町も次のように
三つの要素で構成されている事です。

一つ目は町の守護聖人等を讃えた
宗教的な行事であること。
二つ目は15世紀に始まった閲兵式、
つまり町の軍事パレードですね。

23503
お祭の幟 : 十字はキリスト教徒のエンブレム 23503

そして三つ目は歴史を記念した行事です。
中世末期以降、この沿岸地方は
特に海賊による攻撃を度々受けた為、

23398
トゥアレグ族(ビジャホジョサ) 23398

人々はその歴史を記憶に留めようと
それに宗教行事、軍事パレードを融合させ、
お祭り行事として発展させていったのが、
今日見られる
「モーロ人とキリスト教徒の祭り」なのです。

23561
お祭りの参加者達(ビジャホジョサ) 23561

今回は中でもパレードと
海で行われる「モーロ人の上陸」の演技、
この二つに的を絞って
ご紹介していきます。

トゥアレグ族のTシャツ

それではお祭りを構成する
三つの基本要素のご説明が済んだところで
再びお話の場所を街へ戻しましょう。

早速ですが、
パレードの開始は夜になりますから
その前にモーロ人王とキリスト教徒両王の
二つの軍営を一度見ておこうと考えました。

23501
お祭りの参加者(ビジャホジョサ) 23501

こちらは夜になると
華やかなパレードが行われる大通りです。

祭り日のバス停ベンチにて 21217
「祭り日」のバス停ベンチにて(ビジャホジョサ) 21217

通りでは
お祭りの装いをした人達を
バス停で目にしたり、
また道端ですれ違ったりと
お祭りらしい雰囲気を
感じながら歩いていたところ、
ある男性グループに目がとまりました。

実は彼等を追い越しざまに
ちらっと目に入ったTシャツが気になって
初めは躊躇したものの、
やはり購入先を尋ねようかなと
頃合いを見計らって声をかけてみたのです。

21169
お祭りの参加者達(ビジャホジョサ) 21169

Tシャツは
紺地に”Tuareg”(トゥアレグ族)の文字と、
駱駝と椰子の絵柄がプリントされたもので、
着用していた男性からは、
「おっ、嬉しいこと聞いてくれるねぇ。このシャツ気に入ったのかい?
そうかい...。でもなぁ、これ売ってないんだよな~!」と、
明るくて気っぷの良い言葉が返ってきました。

トゥアレグ族のTシャツ 21141
お祭りのユニフォーム : トゥアレグ族のTシャツ 21141

後で判明したのですが、
お祭りの参加者は
まずキリスト教徒とモーロ人二組に分かれ、
更にそれぞれが
11団体ずつ(同好会)に細分化されていたのです。

彼等が着用していたのは
お祭り用ユニフォームですから、
やはり部外者が
着用するわけにはいかないですよねぇ。

21144
軍営のテント(ビジャホジョサ) 21144

でも、これがご縁で
「これから俺たちの軍営へ一緒に来ないか?
是非祭りをよーく見ていって欲しいんだ...」と、
ここでもお誘いが。

向かった先は、
海辺からさほど離れていない
「モーロの王」と冠された
彼等トゥアレグ族の軍営でした。

21140
トゥアレグ族のエンブレム(ビジャホジョサ) 21140

ところで実際の
「トゥアレグ族」に関して
ごく簡単にご説明すれば、

23407
トゥアレグ族(ビジャホジョサ) 23407

別名「青衣の民」として知られる
アフリカ・ベルベル人系の
サハラ砂漠の遊牧民の事を指します。

21135
トゥアレグ族のBAR(ビジャホジョサ) 21135

さて...。
折角ですからもう少し
こちの軍営内についてお話し致しますね。

21136
Barにて(ビジャホジョサ) 21136

暑い日でしたから、まずは
早速彼等と共に向かったのが
スペイン人らしく奥の仮設BAR。
日本でしたら振る舞い酒に相当するのでしょうか。
「お好きなだけどうぞ!」と、勧めてくれました。

21148
練習中の市民バンド(ビジャホジョサ) 21148

そして、
次に案内して頂いたのが
テント内で稽古中の市民バンドの皆さん達。

21151
練習中の市民バンド(ビジャホジョサ) 21151

バンドの皆さんは
お祭りが行われる上での縁の下の力持ち役。

22944
お祭り会場へ向かう市民バンド(ビジャホジョサ) 22944

この後行なわれる表敬訪問や、
パレードでも同行し、
お祭りを盛り上げます。

21185
軍営テント(ビジャホジョサ) 21185

それから、
もう一方のキリスト教徒王と冠された
軍営もご紹介しておきましょうか。

テントに掲げられた看板には
黒い縁取り帽子の絵と
“Contrabando”(コントラバンド)の文字。
コントラバンド、見つけられましたか。

22842
パレード(ビジャホジョサ) 22842

実は”Contrabando”(コントラバンド)とは「密輸商人」のこと。
密輸商人は、
特にアンダルシア地方に於て
18,9世紀まで略奪を生業とする山賊と同様によく知られ、
その輸送も港から険しい山間部を利用したと言われています。

ですからテント前に置かれた荷馬車の
積み荷の中も何やら怪しげ(笑)。

21153
表敬訪問(ビジャホジョサ) 21153

密輸商人のお話ししているうちに
キリスト教徒王の使節団が、
モーロ人王の軍営へ賑やかに到着しました。

21155
表敬訪問(ビジャホジョサ) 21155

プレス関係が取り囲む中、
町の守護聖人「聖女マルタ協会本部」から
出発した使節団を迎え、
表敬訪問の挨拶が交わされます。

21167
市民バンド(ビジャホジョサ) 21167

使節団の後方を演奏しながら
この軍営に入場してきた
赤シャツの皆さんは
先ほどの密輸商人の市民バンド。

21176
お祭りの参加者(ビジャホジョサ) 21176

赤シャツの前面には
“Contrabando”(コントラバンド)の文字。

その下には
ナイフと交差させた銃が見え、
背景には植木鉢を逆さにした様な
帽子にスカーフ、
それに銃はラッパ銃。

21159
旗を支える少女(ビジャホジョサ) 21159

先ほど旗手を立派に務めた少女が、
満足そうな笑みを浮かべて
こちらを伺っています。

21157
旗を支える少女(ビジャホジョサ) 21157

彼女の笑顔が爽やかでした。

21183
お祭りの参加者(ビジャホジョサ) 21183

一方、こちらの女性達は
表敬訪問の使節団について来た
モーロ人側のグループの人達ですが、

この他にもベドウィン族や、リーフ族、
ベルベル人の海賊団、更に
中世に於いてイベリア半島南部を支配していた
ムラービト朝の黒人守備隊の軍団などが
グループに存在します。

21174
市民バンド(ビジャホジョサ) 21174

また先程から
市民バンドの皆さんが、
どのような曲を演奏しているのか
少し気になるところですが、

楽曲に関しましては
雰囲気のあるパレードの時間に
お話しする予定ですので、
もう少しお待ち下さいね。

21181
市民バンド(ビジャホジョサ) 21181

歓迎の意を表して、
仮設ステージで演奏をする
トゥアレグ族(モーロ側)のバンド。

21179
賑わい(ビジャホジョサ) 21179

音楽と共に、
トゥアレグ族のテント内で
盛り上がるお祭りの参加者達。

21180
賑わい(ビジャホジョサ) 21180

演奏に陽気に踊る
コントラバンド(密輸商人)のメンバーと思しき女性が、
中央で楽しそうに扇子と
飲み物を手に持って周囲を盛り上げます。

特に印象的なのは
祭り日の嬉しさを
体全体で表現していた彼女でした。

21189
市民バンド(ビジャホジョサ) 21189

さてさて、パレードでは皆さん
どのような活躍をするのでしょうか。
楽しみになってきましたね...。

パレードの夜

22798 
街中(ビジャホジョサ) 22798

モーロ人とキリスト教徒のお祭り...。

23457
キリスト王とモーロ王(ビジャホジョサ) 23457

8日間続くお祭りの中でも
最も華やかな行事とは?

22739 
パレード(ビジャホジョサ) 22739

それは
キリスト教徒の組と、

23179 
パレード(ビジャホジョサ) 23179

そして
モーロ人の組が、

22943
パレードの参加者(ビジャホジョサ) 22943

二晩に渡って
催される大がかりな仮装行列なのです。

22603
「密輸商の伊達女」: ドレスを纏ったパレード参加者(ビジャホジョサ) 22603

この日を
ずっと待ちわびていた参加者にとっては、

22602
「密輸商の伊達女」軍団 とフラメンコの衣装を着た少女(ビジャホジョサ) 22602

一番の「晴れの舞台」であるのは
もちろんのこと、

23174
観客(ビジャホジョサ) 23174

観客側もまた同じ。楽しみにしていた
豪華な行列にもう目が釘付け。

22679 
パレード(ビジャホジョサ) 22679

行進曲と共に入場する
絢爛豪華な仮装行列は、

参加者と観覧客どちらも
一時の夢の世界へと導くのです。

22959
モーロの旗(ビジャホジョサ) 22959

パレードのあれこれ

目を見張る仮装行列をご覧頂く間は、
「パレードのあれこれ」と題して
幾つかの角度から
お話しを進めていこうと思います。

本来ならばそれぞれの組が
一晩ずつ独立して行われるものですが、
ここでは組を分けることなく
ご紹介していきますね。

23366
パレード(ビジャホジョサ) 23366

最初は、
このお祭りのパレードの起源について
お話しからです。

22697
民兵: パレード(ビジャホジョサ) 22697

このお祭りが、
宗教的行事、歴史、
そして軍事パレードの三つの要素が
融合されて現在の形になった事は、
すでにご説明致しました。

22879 
パレード(ビジャホジョサ) 22879

この軍事パレードの歴史を
紐解いていきますと、
15世紀に町で催される
兵士グループによる閲兵式に始まります。

22806
密輸商人の伊達男: ビロード地の短衣に美しい刺繍やボンボンなどで装飾(ビジャホジョサ) 22806

16世紀に入りますと、
その閲兵式が、
宗教行事と絡むようになるのです。

22805
パレード(ビジャホジョサ) 22805

具体的には
町の守護聖人のお祭りの際に、
中隊長、少尉、曹長そして伍長指揮の下、

兵士グループが火縄銃を発砲しながら
行進するように変化していったのです。

23418
ベドウィン族のパレード(ビジャホジョサ) 23418

またこの中隊の部隊編成で
現在の「キリスト教徒の仮装行列」を
行うようになったのは19世紀からで、
更にモーロ人の行列は後のことです。

23419
パレード(ビジャホジョサ) 23419

先頭を切るこちらの男性は、
モーロ人の礼服がよくお似合いですね。

こうして10~14,5人程度の各分隊には
彼のように分隊長が一歩前に出て
行進をしていくのです。

11528
キリスト教徒の軍団のパレード(ビジャホジョサ) 11528

ところでお祭りでの分隊長は、
横並びでずらっと
歩調を合わせる兵士達を連れ、
パレードが終了するまで
道の左右をまんべんなく歩き、

沿道の観客に対して大げさに見得を切ったりして、
自分と隊の存在を最大に誇示します。

23139
パレード(ビジャホジョサ) 23139

もちろん、女性の隊長もいますよ。
駿馬をあやつる上官から始まり、
どの士官役の人も役になりきって
観客を十分に楽しませる演出をします...。

23005
パレード(ビジャホジョサ) 23005

ところで如何でしょうか?
パレードを楽しまれていますか?

22914
縁日の屋台(ビジャホジョサ) 22914

軍団のあれこれ

それでは次に
双方の組にどのような軍団があるのか
そのいくつかをご紹介していきましょう。

23416
パレード(ビジャホジョサ) 23416

青衣の民と言えば、すでにご存じの
ベルベル人系のトゥアレグ族です。

23432
パレード(ビジャホジョサ) 23432

また駱駝の歩調に合わせて
上から悠々と歓声を浴びている男性は、
その風貌から何故か
映画 『アラビアのローレンス』を
彷彿とさせませんか。

23405
パレード(ビジャホジョサ) 23405

あっ、今思い出したのですが、トゥアレグと言えば
道で出会ったあの男性グループ。
この隊の何処かに
参加しているはずですね。

23412
パレード(ビジャホジョサ) 23412

さて、
こちらで隊列は変わって、
「次の行列ではおや?」と、
思うような軍団も登場しますよ。

こちらです。

22989
パレード(ビジャホジョサ) 22989

夕暮れの中、道の中央を
褐色に塗った男性が、
動物の皮を纏って颯爽と歩いてきます。

ご覧のようにモーロ人の行列には
アフリカ・スーダンやサヘル(サハラ南縁諸国)の
黒人守備隊の仮装をした軍団も加わっています。

22987
パレード(ビジャホジョサ) 22987

一見彼等の登場は奇妙に映るかもしれません。
しかしそれには理由があります。

遙か昔、
11世紀のスペイン・イスラームの領域
「アル・アンダルース」。
支配していた北アフリカのムラービト朝が、
黒人を国境警備の任務に就かせていたのでした。

22985
パレード(ビジャホジョサ) 22985

黒人守備隊は身なりや戦闘も独特で、
儀式用舞踏を行い、化粧を施していました。

彼等のほとんどが奴隷と言われており、
また戦闘の際には旗やドラムを打ち鳴らし、
キリスト教徒の兵士はその姿に
恐怖で震え上がり、
逃げ出すほどであったと伝えられています...。

22991
パレード(ビジャホジョサ) 22991

衣装のあれこれ

今度はパレードの軍団の衣装について
特徴的な服を観ていきましょうか。

独特な礼服を着た軍団をご覧下さい。
次に登場するのは「カペータのモーロ人」です。

23013
パレード(ビジャホジョサ) 23013

カペータとは英語で言うケープのこと、
つまり「覆う」と言う意味からだそうですが、
装飾品や衣装が見事で、
観客から拍手喝采が起こります。

22997
パレード(ビジャホジョサ) 22997

更に
分隊長の後ろに続く兵士達の列になると
その姿に圧倒されてしまい、
一体どこから観ればよいのか困っていまいました。

23006
パレード(ビジャホジョサ) 23006

羽毛のついた頭のかぶり物から足の先まで
見所満載でびっしり埋め尽くされています。
隊列が瞬く間に過ぎ去ってしまうので
目が追いついていきません。
ゆっくり眺めたいと思いつつ残念でした。

23159
パレード(ビジャホジョサ) 23159

女性達の軍団の衣装も
優雅で煌びやかです。

23429
パレード(ビジャホジョサ) 23429

衣装には刺繍を施したり、生地には高級感のあるベルベット、
また皮革なども使用され、
上品さや重厚感が十二分に感じられました。

22740
パレード(ビジャホジョサ) 22740

「このお祭りの衣装を担当した
服飾デザイナーも、
何処かで一つ一つ自分の作品を観ながら
次回作の事をあれこれと、
考えているのかも...」と思いましたが、
これ程の規模のお祭りはもう一つの産業だと思います。

23087
パレード(ビジャホジョサ) 23087

さて、もう一つ二つ、
隊列を観ていきましょうか。
こちらのモーロ人の礼服は、
ブルー・ブラック、ゴールド、
そして白色の三色を用いた色遣いです。

ベルベットの帽子に白いサテン地のスカーフ。
マントにはゴールドのスパンコールと、
パール・ビーズで装飾されています。
帽子のトップやマントのスパンコールは
夜の照明の中できらきらと輝き、
豪華さをより演出します。

22642
キリスト教徒の組・海賊パレード(ビジャホジョサ) 22642

そして
打って変わって海賊の隊列が登場です。
他と比べて決して煌びやかではありませんが、
実際、何よりも海賊としてのイメージが
とてもよく主張された一着だと思います。

白のシャツに
袖無しコートは黒のキルティング地。
緑や彩りのある落ち葉の色調を
背中にそれぞれ当てていますが、
特に中央に置かれたアシメトリーの蛇と、
外側に逆さの蛇をあしらったアップリケは
注目に値します。

23285
観客(ビジャホジョサ) 23285

そして「表情あれこれ」

大胆で自由なデザインによる
様々な礼服を纏った軍団はいかがでしたか?

22639

それでは、
ここからは特に印象に残った
参加者の表情をご紹介していきますしょう。

パレード(ビジャホジョサ) 22639海賊の登場です。
凄みのある悪漢の役なのでしょうが、
この男性は優しそうなお顔立ち。ですから、
立派な髭もこの日の役づくりの一つかも
しれませんね。

22649
木こりの分隊長(ビジャホジョサ) 22649

ある女性分隊長の自然な笑顔。

手斧を持っていますから、
木こりの軍団かしら?
キリスト教徒の組には、この他にも
職業軍団として猟師や農民・酪農が存在します。

22750
パレード(ビジャホジョサ) 22750

そして
ビジャホジョサと言えば
忘れてはならないのが漁師さん達ですが...。

22744
パレード(ビジャホジョサ) 22744

そう言えば、
夜から始まるパレードの参加は、
子供達にとって時間も遅いのでつらいはずです。

髪にネットを被った少女は
手に魚を載せたざるを持って
お隣の小さな漁師さんと歩いていました。
心苦しいのはまだパレードに不慣れなのか、
左右に並ぶ観客を前に、
ぎこちない様子で首を交互に振って
かなり緊張気味のようでした。

22622
パレード(ビジャホジョサ) 22622

またパレード中に
お父さんに抱っこをせがむ男の子や、

23394
パレード(ビジャホジョサ) 23394

お母さんが
すやすや寝ている赤ちゃんを
膝に抱いての出場など、
微笑ましい場面に随分出会いました。

23191
パレード(ビジャホジョサ) 23191

子供達は、
次の年には成長して
もっともっと上手に
演技が出来るようになる事でしょうね。

22752
パレード(ビジャホジョサ) 22752

さて、こちらは
漁網を持った漁師のおかみさん。
全身で喜びを表現する姿に
惹かれました。

彼女だけはなく
後に続く行列の皆さんも、
「陽気な町の人々」そのもの。

22757
パレード(ビジャホジョサ) 22757

ところで
キリスト教徒の組の特徴ですが、
全体的に兵士達であれば
凛々しく、力強さを強調し、
女性陣は爽やかで明るい印象を受けます。

23371
パレード(ビジャホジョサ) 23371

一方、モーロ人の組に於いては

22964
パレード(ビジャホジョサ) 22964

男女ともに東洋的、優雅さ、
時にはミステリアスを、

22971
パレード(ビジャホジョサ) 22971

そして
女性と言えば華やかさの上に、
妖艶さを強調しています。

パレードの行進曲について

さて、この辺りで
パレードになくてはならない行進曲について
お話致しましょう。

22825
パレード(ビジャホジョサ) 22825

各軍団の行列につく
市民バンドが演奏する曲目ですが、
キリスト教徒の軍団の行進に合わせて
映画『栄光への脱出』など勇敢な曲や、
またどちらの組も闘牛で聞かれる
「パソ・ドブレ」も演奏されます。

22960
パレード(ビジャホジョサ) 22960

このお祭りの為の2拍子のマーチは、
ご想像されるより
たぶんもう少し遅めですよ。

23110
パレード(ビジャホジョサ) 23110

一方、
モーロ人の軍団で演奏されるのが
“Marcha Mora”(モーロ人のマーチ)です。
中でも曲目”Caravana”(キャラバン)のように
力強くも東洋的で優雅な曲や、ご覧のように
青年達が担当するパーカッションに、
後方を歩く芥子色の男性が奏でるドゥルサイナ。

このチャルメラのような音が出る
中世の木管楽器の組み合わせは
エキゾチックであり、また素朴な響きがします。

23259
パレード(ビジャホジョサ) 23259

こちら、頭巾姿の少年は、
モーロ人の、とあるバンドの一員です。
市民バンドにはティンパニーを始め、
大きな打楽器を
行進の進行状況を見極めながら、
懸命に牽引していく子供達がいます。

23238
パレード(ビジャホジョサ) 23238

子供も大人に混ざって
組織の立派な一員として参加することは大事で、
子供自身の責任感や達成感が養われていく
大切な一コマを見た瞬間でした。

23204
パレード(ビジャホジョサ) 23204

そしてこちらが
牽引されていた楽器。
お腹にじんじんと
響き渡るほどダイナミックな音で、
行列の臨場感を演出するティンパニー。

奏者は、バンドのパートの中でも
きわめて体力、気力を必要とします。
昂揚する顔の表情から
渾身の力を込めて演奏している様子でした。

23354
パレード(ビジャホジョサ) 23354

特に打楽器奏者は
パレードのフィナーレまで持つのかしらと、
心配になる程の奮闘ぶりです。

23635
パレードを終えて(ビジャホジョサ) 23635

やはり終了後は想像していた通り、
広場の一角でそのまま仰向けにごろん、でした。

と、同時に
演奏後の皆さんのほっとした顔。満足げの顔。
とても良い表情をしていましたよ。

華やかなパレードを演出する人や動物たち

23384
パレード ロバ(ビジャホジョサ) 23384

パレードも佳境を迎えました。

ところでバンドの他にも
縁の下の力持ちがいますよ。

23380
パレード ロバ(ビジャホジョサ) 23380

馬やロバ、

23389
パレード 山羊(ビジャホジョサ) 23389

山羊を始め他の動物たちです。

23327
パレード 駱駝(ビジャホジョサ) 23327

ヒトコブ駱駝と
駱駝の口を取る女性。

23329
パレード 駱駝(ビジャホジョサ) 23329

また、このお祭りでは
駱駝のちょっとしたパフニングが起こりました。

パレード ハプニング(ビジャホジョサ) 23338
パレード 駱駝(ビジャホジョサ) 23338

それは一頭の小駱駝です。
観衆を前に
興奮して座り込んでしまったのです。

23342
パレード らくだ(ビジャホジョサ) 23342

そこで先行していた駱駝使いと
母駱駝が居場所まで戻り、
鳴いていた小駱駝も安心して立ち上がり一件落着。

22714
観客(ビジャホジョサ) 22714

人間の赤ちゃんと小駱駝も同じ。
環境が急変すればぐずりますよね。

22809
パレードの中で(ビジャホジョサ) 22809

あらら?沿道では、
行進し終わった女盗賊さんが男性とペアで、
踊っていますよ。
踊りの間合いも上手でした。

で、何処から何の音楽が聞こえてくるかと言えば、
こちらです...。

22847
パレード(ビジャホジョサ) 22847

パレードでは女性達のグループが
颯爽と「セビジャーナス」を
踊っていたのですね。

セビージャナスとは平たく言えば
南部アンダルシアの都市セビージャ(セビリア)や
その地域の舞踊のこと。

22854
パレード(ビジャホジョサ) 22854

裾に水玉模様のフリルをあしらった深紅の衣装に
ひっつめたアップの髪に花飾り。

24612
金細工を施した珊瑚のイヤリング 24612

そして
金細工を施した伝統的な珊瑚のイヤリング。

東部バレンシア地方の女性も
この衣装がとてもお似合いです。

22852
パレード(ビジャホジョサ) 22852

マンティージャ(ショール)と
カスタネットの踊りからこの後、
胸元にたたまれている扇が
夜空に弧を描くように
白く大きく舞う事でしょう。

パレードの山車

22979
パレード(ビジャホジョサ) 22979

それでは
パレードの締めくくりは山車でお楽しみ下さい。

23443
モーロ人王(ビジャホジョサ) 23443

モーロ人王の山車です。
フィナーレに相応しく
衣装も山車も大変豪華でした。

23444
ハーレムの美女達(ビジャホジョサ) 23444

こちらは
ハーレムの美女が乗った山車。

キリスト教徒の組も素晴らしいのですが、
モーロの組の衣装は色彩や
装飾品が華やかな分、
女性も一段と艶やかに映りますね。

23107
モーロ人の市場(ビジャホジョサ) 23107

より観客の目を引いたのは
こちらモーロ人の組で、

やはり以前、
スペインの新聞のコラムと記憶していますが、
他の町のお祭りでも
参加者が着用したいと思うのは
やはりモーロ人の衣装と答えていました。

22851
海賊船の山車(ビジャホジョサ) 22851

たっぷりとご覧になって頂いた最後は、
この後のお話の展開に登場する海賊船です。
パレード、楽しんで頂けましたか?

それではこの辺で幕引きを♪

23391
パレード(ビジャホジョサ) 23391

***  ***  ***  ***  ***  ***  ***

休憩所「花の庭」へようこそ

第二部のお話が終了いたしました。
ご覧頂きましてありがとうございました。
ご案内した通り、こちらでもう一度
「休憩時間」のご案内をさせて頂きます。

20701
柏手アジサイ 20701

今回の休憩時間用のお花は二点、
「白の柏手アジサイ」と
「赤いカンナ」の取り合わせです。

前回の休憩場所共に
今年の梅雨時に撮影した作品で、
どうぞ花の持つ生命力や
気品溢れる表情をご覧下さい。

カンナ 20768
カンナ 20768

では第三部も引き続きまして
モーロ人とキリスト教徒のお祭りの様子を
お届け致します。

***  ***  ***  ***  ***  ***  ***

舞台を海辺に移して

アリカンテ県内の随所で開かれる
「モーロ人とキリスト教徒のお祭り」。

23530
海戦(ビジャホジョサ) 23530

内陸地でのお祭りよりも
この海辺の町ビジャホジョサを選んだ理由とは、
他所にはないスケールの大きい海戦や
上陸の演技が見られる事からでした。

23569
お祭りの参加者(ビジャホジョサ) 23569

そしてお祭りの舞台も
前夜までパレードで行われていた
目抜き通りから
海岸通りへとその舞台が移されました。

23556
観客席(ビジャホジョサ) 23556

それに伴って、
パレード用に使用された観客用の椅子も
ずらっと海岸通りに並べられてこの通り。

23550
お祭りの前(ビジャホジョサ) 23550

夕方になると
午後の演技が始まり、
時間がたつにつれて
お散歩がてら見に来る人々や、

23559
お祭りの参加者(ビジャホジョサ) 23559

市民バンドの仲間達が集まったり、

23557
フーセン売り(ビジャホジョサ) 23557

また風船売りの人や、屋台も置かれ、

23552
お祭り(ビジャホジョサ) 23552

普段海水浴客が歩く通りは、
一気にお祭りムード。

そのような訳で、この時間は
海岸通りにやって来る人々を中心に
ストリート・スナップを撮る目的で
気軽に歩いていました。

23566
お祭りの城(ビジャホジョサ) 23566

こちらは通りの前の
浜辺の一角です。

背後に埠頭がある場所には
お城が設営され、

23512
お祭り前(ビジャホジョサ) 23512

浜辺中央には、
これから行われる演技に向けて、
旗や防御フェンスが設置され、

23564
夜間照明の鉢(ビジャホジョサ) 23564

夜間用照明も
すっかり準備が整ったもようです。

ところで、スナップ撮りを終えて
引き返せばよいものの、
やはり海辺での演技が気になって
目を岸辺に向けてみますと...。

23532
海戦(ビジャホジョサ) 23532

うっすらと見えるフェンスの向こうで
行われていたのは、夜の上陸戦の
「前哨戦」とでも申しましょうか。
眺めているうちに『やっぱり望遠で撮ろうっと!』と、
こう思うのは必至(笑)。

23537
海戦を見る人々(ビジャホジョサ) 23537

しかし、何とここで一つ問題が発生。
実は、装着していたカメラレンズは
街角スナップですから
標準レンズだったのです。

23605
海戦(ビジャホジョサ) 23605

ばーん!...ばーん!
『あらら、今度は煙も出てきた!』

23600
海戦(ビジャホジョサ) 23600

演技内容は、
「キリスト教徒側の密輸商人達と海賊が
船積みをしている最中に、
沖に現れたベルベル人海賊の艦船を発見し、
彼等もキリスト教徒の兵士達に加勢して
大砲を発射...」と、こんな内容です。

23577
海戦(ビジャホジョサ) 23577

『どうしよう?』
こうして思案している最中にも、
次々にシーンが展開していきます。
『うーん、今すぐ撮りたい!何かないかしらねぇ?』

23591
海戦(ビジャホジョサ) 23591

そして、
「あっ、こういう手があるじゃない?」と、
身の回りを見回し、
ある物に気がついたのです。

このある物で撮影したのが
今、ご覧になっている写真と言うわけです。

23578
海戦(ビジャホジョサ) 23578

一体何を使用したかは
ご想像にお任せしますが、
出来上がった作品には、
すさまじいレンズ収差が出ています。

とは言え意外や意外。
「時代がかったシーン」には
中々面白い表現方法だと
思っています。

23580
海戦(ビジャホジョサ) 23580

正にこれも「禍転じて福となす」。
芸術的な仕上がりとは
到底言えませんが、
これも面白い手法かも♪

23547
お祭りの少女(ビジャホジョサ) 23547

それから、先ほど
「ストリート・スナップには標準レンズ」と、
お話ししましたが、日本での場合、
むしろ焦点距離が35ミリが多くなります。
いずれにせよ、これは人によりけりですので
一概に申し上げられませんけれどね。

23615
モーロのイメージ(ビジャホジョサ) 23615

時刻はそろそろ午後9時近くになりました。
未だ日も沈みませんし、
あなたも「沖にいる海賊がやって来るのは何時?」と、
思っていませんか。しかし海賊側にも
「闇に紛れて」と言う
彼等の事情もあることでしょうに(笑)。

と言うわけで、
一度ホテルに戻って
仮眠することに致しますね。

お祭りに備えて

滞在先のホテルは
ビジャホジョサからおよそ20㎞程離れた
小さな入り江のある静かな高台にありました。

ホテルの中庭
ホテルの中庭(エル・カンページョ) 23658

そのホテルに戻り、数時間後の午前一時には、
マドリードから持参した
日本製の小さな炊飯器でご飯を炊き、
とても小さなおにぎりをいつもより多めに作って、
海岸の撮影現場での兵糧食としました。
お祭りの参加者も戦なら、撮影する側も同じ。
いずれも夜中から朝まで続くので体力勝負です。

予定通り午前2時半過ぎには
ビジャホジョサの海岸通りに到着しましたが、
まだ人の数はまばら。屋外の会場には
観客はほとんど来ていないようでした。

23681
スポットライト(ビジャホジョサ) 23681

夕方、現場の下見をした際に、
撮影場所は
二カ所に候補を絞っていたのですが、
最終的にどちらにしようかと考えあぐね、
持参した狩猟用の椅子を持って
「行ったり来たり」。

これでは「金比羅さまに入った泥棒」みたいですよね。

24609
狩猟用椅子 24609

でも、その行動を
時々気にしてくれた人がいたなんて露知らず、
最後にもう一度、候補の一つである
照明・音響設備の隣に腰を下ろすと、

機材の調整をしていた一人が近づいてきて、
「ねぇ?君さ、(イベント屋の)僕達の隣にしたら?絶対にいいって!」ですって。その言葉に嬉しいやら、またちょっと恥ずかしいやらでした。
(ありがとう。撮影は上手くいきましたよ!)

23705
海戦(ビジャホジョサ) 23705

さて、演技が始まる迄
僅かですが時間がありますので、
その間に史実を元に創られた
「海戦並びに上陸戦のシナリオ」について
事前にご説明しておきましょうか。

それは、
「1538年7月29日の夜中のことでした。
アルジェからのベルベル人海賊が
ビジャホジョサの海に現れると、
警戒していたキリスト教徒の兵士は
海岸に駆けつけ、武器で迎え撃ちます。

23744
海戦を待つ観客(ビジャホジョサ) 23744

そして夜が明けると、
海賊側からキリスト教国の王の元へ
軍使を派遣し降伏を要求しますが、
失敗に終わってしまいます。
やむなしと決意した海賊は次々に浜に「上陸」し、
ビジャホジョサのシンボルである城を奪取します。

ところが「三日月の旗」が城の
上部に掲げられたのも束の間、
再び同日の夜に交えた小戦闘で
キリスト教徒の兵士達が城の奪還に成功し、
見事勝利を収めるのでした」。

23742
聖女マルタを形取った花火(ビジャホジョサ) 23742

また演技の途中では、伝説上
聖女マルタが町を守った事から、
クレーン船で吊られた
聖女マルタの姿を形取った
花火が見られます。

23684
夜間照明(ビジャホジョサ) 23684

シナリオを語っているうちに
会場の機材の準備も整い、
すでに大勢の観客が集まって
もう後ろを振り向く事さえ
ままならなくなりました。

時刻を確かめてみますと
午前4時45分まであと僅か。
いよいよお祭りのクライマックスも
待ったなしで始まりそうです。

ベルベル人の海賊来襲

午前4時45分。
海岸通りに座っておりますと、
背後の小高い場所から
聞こえてくる音がします。

23632
教会の鐘楼(ビジャホジョサ) 23632

ガラン、ガラン、ガラン。
ガラン、ガラン、ガラン...。

それは旧市街の教会の鐘楼から
急を知らせる為に
打ち鳴らされる鐘の音。
町に危機が切迫しているのでした。

24787
海戦(ビジャホジョサ) 24787

夜の闇に紛れて近づいて来たのは
アルジェを拠点とする
三十艘程のベルベル人海賊の艦船。
何処からともなく
船が不気味にきしむ音が
こちらにも聞こえてきそうです。

4259
海戦(ビジャホジョサ) 4259

船には帆と、奴隷に櫂で漕がせる
大型の「ガレー船」や「ガレオン船」、

4261
海戦(ビジャホジョサ) 4261

また「フリーゲート(小型快速船)」や
更に上陸用船艇も見えます。

4270
海戦(ビジャホジョサ) 4270

ご存じかも知れませんが、
海賊の船は
全て「海賊船」と一括りで
呼ばれるわけではありません。

23987
海戦(ビジャホジョサ) 23987

このアルジェの海賊達は、
敵船の捕獲や、
陸上での略奪行為をするとは言え、

実際は純粋に
海賊船と呼ばれる船ではなく、
その国の政府のお墨付きがついた
「私掠船(しりゃくせん)」なのです。

306
海戦(ビジャホジョサ) “2010年度 国際写真賞(IPA) Honorable Mention受賞作品” 306

私掠船とは戦争中に於いて、
軍船ではなく個人の船で
敵国の力を削ぐ行為をする
船を指します。

304
海戦(ビジャホジョサ) “2010年度 国際写真賞(IPA) Honorable Mention受賞作品” 304

さて
こちらはその私掠船が現れて、
海岸に急行したキリスト教徒の兵士達。

大砲や
火縄銃の火蓋が切られ
戦が始まりました。
海賊との戦いは激しく、そして
夜明けまで続けられていきます。

4277
海戦(ビジャホジョサ) 4277

海賊船の大砲から
砲弾(火薬)が素早く発射されると
もうもうたる煙や火花が
一瞬にして水面を明るく染め、

23718
海戦(ビジャホジョサ) 23718

それと同時に、
近くを航行している仲間の帆船や
海賊の人影を浮かび上がらせるなど、

4283
海戦(ビジャホジョサ) 4283

陸に向かってくるその艦船の様子は、
観客にとっても
スリルと迫力を感じる事でしょう。

307
海賊船(ビジャホジョサ) “2010年度 国際写真賞(IPA) Honorable Mention受賞作品” 307

また海戦では、
数えきれぬほどの花火が
空に途切れることなく打ち上げられたり、

23727
海戦 : 海辺で火縄銃を撃つキリスト教徒の兵士達(ビジャホジョサ) 23727

白熱した戦闘を印象づける為に
照明ライトが戦いの行方を追うので、

海岸部での大砲や、
火縄銃が一斉に発射されると、
辺りはもう昼間のような明るさです。

305
火縄銃を撃つ兵士達(ビジャホジョサ) “2010年度 国際写真賞(IPA) Honorable Mention受賞作品” 305

こうして様々な種類の光と、
鮮やかな照明の組み合わせと共に、
音楽や轟音などの音響効果と相まって、

海辺も海上も全てが
幻想的な世界へ包まれていきます。

4279
海戦(ビジャホジョサ) 4279

さて、再び
戦いのシナリオについて
お話を戻す事に致しますね。

24607
海戦(ビジャホジョサ) 24607

海戦では、
十字架のエンブレムを掲げた
キリスト教徒側の船からも

ベルベル人海賊に負けじと
攻撃が加えられ、

23719
海戦(ビジャホジョサ) 23719

同様に浜からも

23702
海戦(ビジャホジョサ) 23702

兵士達による
必死の戦いが行われますが、

23695
海戦(ビジャホジョサ) 23695

一筋の朝日が差し込むのを合図に
双方の攻撃が突然停止します。

それは海賊船から
テンダー・ボートに乗り換え、
白旗を揚げた軍使が
他船よりもいち早く岸に到着した時でした。

24786
海戦(ビジャホジョサ) 24786

派遣された軍使は、モーロ人の王からの
「ビジャホジョサの明け渡し」の書状を
キリスト教国の王の元へ届けるのですが、
交渉は決裂し、その証として、
今度は赤旗を掲げて戻っていきます。

23708
海戦(ビジャホジョサ) 23708

直ちに海賊は、
屈服しないキリスト教徒に対して
戦闘を再開し、
一斉に上陸準備にかかります。

23735
海戦(ビジャホジョサ) 23735

ご覧下さい。
海賊達が続々と近づいてきます。

23741
海戦(ビジャホジョサ) 23741

辺りが少しずつ明るくなる中、
彼等が浜に接近してくると

24058
海戦(ビジャホジョサ) 24058

乗船している参加者の中には
観客に見えるよう
武器を手に取ったり、

4282
海戦(ビジャホジョサ) 4282

また
士気を挙げる大げさな演技をして、
上陸の演技を一段と盛り上げていきます。

23759
海戦(ビジャホジョサ) 23759

あっ...!!!
どの船からも一斉に
武器を手に飛び込み始めました。

24593
海戦(ビジャホジョサ) 24593

泳いで上陸するもようです!

24598
海戦(ビジャホジョサ) 24598

夜明けの海を泳ぐ海賊。

24599
海戦(ビジャホジョサ) 24599

パ、パーン!
花火を搭載した船からは
空へと花火が上がり続けます。

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上陸戦(ビジャホジョサ) 23757

海賊役の参加者達は、
連日連夜の行事に加え、
明け方の海を泳ぐとなれば
体力は消耗するはずですが
大丈夫なのでしょうか。

23756
上陸戦(ビジャホジョサ) (ビジャホジョサ) 23756

一方、船上では、

24596
上陸戦(ビジャホジョサ) 24596

順々に海中に飛び込んでいるものの、
船上でもかなり盛り上がっているようで、
船体に手をかけては大きく揺らしたり...と、
仲間同士で煽ること煽ること。

23755
上陸戦(ビジャホジョサ) 23755

まぁ、この辺りまでくると
かなりお遊びの状態に。

24595
上陸戦(ビジャホジョサ) 24595

また、
しばらくある船を眺めておりましたら
カップルに目がとまりました。

24594
上陸戦(ビジャホジョサ) 24594

こちらの船です。よりにもよって、
ちょうどマストの手前にいる二人は
わざわざ高い船首を選び、
女性はさも「行くわよぉ!」と言わんばかりに鼻をつまみ、
男性と共に仲良く海中へ「どぼん!...ぼん!」

23769
上陸戦(ビジャホジョサ) 23769

でも、
さすがビジャホジョサの皆さんは
誰もが「海の子」。

23763
上陸戦(ビジャホジョサ) 23763

無事、
浜へあがってきましたよ!

23751
上陸戦(ビジャホジョサ) 23751

海上では警備の船や
ボートも出ていましたが、
何事もなく本当によかったですね...♪

上陸して

通りでは
海から上がって来た人達が小休止。

照明で使用した発電機の熱で
乾かしていますねぇ。

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シャツを干す少女達(ビジャホジョサ) 23776

どの人も一様に寒そうです。

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暖を取る少年(ビジャホジョサ) 23773

そしてこちらの少年も、
背中を丸め前屈みになり、
しばらく動けない様子でしたが、
ただ体の冷えとは対照的に
少年の満足げな表情が
見え隠れしていたのが印象的でした。

23770
祭りの余韻(ビジャホジョサ) 23770

「一夜のドラマティックな海戦を反芻し、
明け方の海を自力で泳いだ達成感をかみしめいた...」と、
彼の心には暖かいものが
じーんと広がっていた一時かもしれませんね。

23768
上陸の演技を終えて(ビジャホジョサ) 23768

さて、手元のカメラに当たる光が
すっかり朝の光に変わりました。

23775
上陸戦(ビジャホジョサ) 23775

夜中から行われていたこの演技は、
誰もがまるで
夢のような出来事だと
思っている事でしょう。

24589
上陸戦(ビジャホジョサ) 24589

それからもう一つ、
演技の「その後」が気になりませんか?

上陸後の海賊達はどうなったのかも
知りたいですよね。

23506
白兵戦(ビジャホジョサ) 23506

そうでしたよね。お話が前後しましたが、
海から上がってきた海賊とキリスト教徒の間では
海辺で白兵戦が行われましたが、
海賊側がこの度は勝利を収めました。

24584
上陸戦の後(ビジャホジョサ) 24584

でも先にお話した通り、
この日の夕方には、再び小戦闘が起こり、
最終的には見事、
キリスト教徒側が城を奪還します。

23567
城と大砲(ビジャホジョサ) 23567

お祭りのハイライトである上陸の演技も済んで、
朝のオレンジ色の美しい光を浴びながら、
野営テント周辺では敵味方が一緒になって
仲良く談笑する姿が見られました。

24585
上陸戦の後(ビジャホジョサ) 24585

夜通し燃えていた
かがり火の勢いも弱くなり、
暗にこの演技の終了を
知らせているようでした。

4292
お祭りの終わり(ビジャホジョサ) 4292

さぁ、ビジョホジョサの夏祭り、
中でも有名な
「モーロ人の上陸」の演技は
これで終了です。

24601
浜のゴミ拾い(ビジャホジョサ) 24601

楽しんで頂けましたか?

24604
お祭りを終えて(ビジャホジョサ) 24604

「さてと!」
ホテルに戻ろうと、
徹夜の体にカメラ機材と椅子を背負って
通りを歩いていた時のことでした。

火縄銃を扱った兵士役の人が威勢良く
「ねぇ、火縄銃を持ってごらんよ!」と、ひょいと手渡してくれました。
男性の顔は、一晩中発砲していた為にもう煤だらけ。

24581
上陸戦後、火縄銃をこちらへ手渡すおじさん(ビジャホジョサ) 24581

家路に戻る参加者達が
歩いている道で立ち止まり、
彼が差し出してくれた火縄銃を
手に取ってその重みをずしりと感じていると、
ファインダー越しに眺めていた
あの夢のような一夜が終わった事を、
その時初めて実感したのでした。

本日ラストの写真

一週間以上続く
モーロ人とキリスト教徒のお祭り。
特に3000人以上が参加する
パレードや上陸の演技は非常に華やかで、
また規模も大がかりであることから
「祭典」と表現しても過言ではないと思っています。

23464
駱駝(ビジャホジョサ) 23464

そして何と言っても
お祭りの最大の山場は、やはり
この上陸の演技ではないでしょうか。

またお祭りではなく
実際当時の町の歴史なのですが、
海賊が上陸して侵攻を受けた際、
女性達は勇敢で
高い城壁の上にも恐れることなく上り
夫に弾薬を手渡したり、
敵兵を上から投石してやっつけた
武勇伝が記録文書に残っています。

113
海戦(ビジャホジョサ) “2010年度 国際写真賞(IPA) Honorable Mention 受賞作品” 113

「陽気な町」の人々の歴史は
ただ陽気であるだけでなく、
町を防衛する為に女性も大いに活躍し、
また勇敢でもあったようです。

お祭りを通して見たビジャホジョサの町について
あなたは
どのようなご感想を持たれましたか?

ビジャホジョサの海岸 4124
海岸の椰子 4124

***  ***  ***  ***  ***  ***  ***

ブログ後記をかねて
「レコンキスタ後のスペイン東部の世界」について

バレンシア州アリカンテ県。
甘い物好きなスペイン人に
この地方の名産品を聞けば、
必ずX´masのお菓子「トゥロン」と
答えてくれるでしょう。

Turron-1
お菓子 アーモンド入り「トゥロン」 Turron-1

特にアーモンドに蜂蜜が入ったものは
カリカリとして
「西洋おこし」と言う表現がぴったり。
風味が良く美味しいのでシーズン中は、
ついつい手が出る
言わば「食べ過ぎ注意」のお菓子でもあります。

そのトゥロンですが、
数年前にスペイン生活にピリオドを打ち
いよいよ日本へ戻る際、搭乗前に
マドリードの空港内にある免税店で
お土産に買い求めました。

Turron-2
お菓子 アーモンド入り「トゥロン」 Turron-2

『どれにしようかしらね...?』と思いつつも、
旅立つ気持ちの方が強くて気もそぞろ。

それでも沢山並べられた中から
何気なく手に取った商品の製造元に
Villajoyosaの文字を認めると、
小さな驚きの声が口から漏れ、

地中海の蒼い色や旧市街の色彩、
町で出会った陽気な人々の顔が
目の前に広がっていったものです。

地中海(アルテア) 24565
地中海の眺め(アルテア) 24565

さてトゥロンや、チョコレートなど
お菓子の生産地として、
またバレンシア地方のお米料理
パエジャ(パエリア)を始め、

素朴だけれどとっても美味しい魚のフライ(ビジャホジョサ) 21343
素朴だけれどとっても美味しい、魚のフライ(ビジャホジョサ) 21343

魚介料理が美味しい
現在のビジャホジョサの町ですが、
かつてこの沿岸都市に
「何故ベルベル人海賊が襲うようになったのか?」
その歴史的背景について
もう少し触れておきたいと思います。

尚、お話をする間は、
同じコスタ・ブランカ沿岸の町で、
やはり当時海賊の侵攻にあった町
「アルテア」の美しい風景を始め、
その他関連のある景色も
幾つかご紹介たいと思います。
どうぞもう少しお付き合い下さいね。

教会の鐘楼(テルエル・アラゴン) 16983
教会の鐘楼(テルエル・アラゴン) 16983

記録文書によれば、ビジャホジョサは
キりスト教徒によるレコンキスタが進む中、
アラゴン連合王国沿岸部の防衛管理の目的で、
1300年ちょうどに再入植した
キリスト教徒によって作られた町でした。

1400年代半ばになると、
この沿岸地域でも「都市」としての特権が与えられ、
肥沃な土地を利用した産物、
例えばワインや穀物、アーモンド、
ドライ・フルーツ等商品の「船積み」が
唯一許可された港として、
また独自の造船所を持つ町として
発展していきますが、

ライオンの中庭・アルハンブラ宮殿(グラナダ) 22121
ライオンの中庭・アルハンブラ宮殿(グラナダ) 22121

有名なアルハムブラ宮殿に代表される
イスラーム教徒最後の「グラナダ王国」が
カトリック両王によって1492年に陥落すると、

それまで出没していたグラナダ王国や
周辺のキリスト教国の海賊達よりも、
今度はオスマン帝国の勢力拡大によって
支配下である北アフリカベルベル人海賊が
増加していき苦しめられることになります。

ヌエストラ・セニョーラ・デル・コンスエロ教会: 華麗で美しいドーム(丸屋根)は「地中海のドーム」と呼ばれている。(アルテア)
ヌエストラ・セニョーラ・デル・コンスエロ教会:  華麗で美しいドーム(丸屋根)は「地中海のドーム」と呼ばれている。(アルテア) 147

当時、ベルベル人海賊の行いは
イベリア半島東部沿岸都市に住む
キリスト教徒の住人にとっては
「身の毛もよだつ」、また「血も凍る」ような
残虐非道ぶりであり、

彼等は田畑の焼き討ちを始め、金銀を略奪、
また身代金目的で住民を連れ去り、
支払えない場合にはイスラーム世界の市場で
白人奴隷として売り飛ばしていました。
一大ビジネスであった海賊行為は、
1830年にフランスがアルジェを征服するまで
続けられたと言われてます。

モーロのランタン(ビジャホジョサ) 23611
モーロのランタン(ビジャホジョサ) 23611

しかし見逃してはならないのが
バレンシアの地に大勢残留していた
Morisco(モリスコ)の存在です。

モリスコとはイスラーム教徒がレコンキスタ後に、
キリスト教徒に改宗させられた人々を指しますが、
それ以前に沿岸部の肥沃な土地に
住んでいたモリスコは、
その後1609年に追放されるまで
山間部の不毛の地に住む事を強いられたのでした。

地中海沿岸の山岳地帯・ベティカ山系(バレンシア地方) 24537
地中海沿岸の山岳地帯・ベティカ山系(バレンシア地方) 24537

モリスコが追放される理由を
簡単にご説明するのは難しいのですが、
キリスト教徒との共生では
宗教や民族、特に言語の違いも大きく、
始めは表面化しない小さな事柄に見えていた問題も
やがては不満が爆発し、蜂起するようになっていったのです。

モリスコのイメージ(ビジャホジョサ) 23614
モリスコのイメージ(ビジャホジョサ) 23614

そのような環境下に於いて
彼等の中には同じイスラーム教徒である
北アフリカの海賊を手助けする者が出てきました。

例えばアルジェの海賊が
「目的の町を急襲する際、いかに少ない時間で
手っ取り早く戦利品を得られるか」を手引きするような
町の詳細情報を提供する者や通訳をする者などです。
またモリスコ自身でさえ、悲惨にも奴隷として
アルジェへ連れて行かれ、後になって今度は
海賊一味として成り果てた者もおりました。

地中海高速道路沿道の陶器店 24542 
地中海道路沿道の陶器店 24542

すでにお話したように、
ビジョホジョサは周囲のモリスコ達が
大勢共生している町や村と異なって
完全なるキリスト教徒の町であり、
かつ、この地域の要でしたから、
これはもう悪習と表現しても良いほど
何度もベルベル人海賊に襲われたのは
想像に難くないと思います。

アルテアの旧市街 24559
アルテアの旧市街 24559

以上ご説明が長くなりましたが、
こうして俯瞰してみますと、
イベリア半島に於けるレコンキスタによって
イスラーム支配が終了してもなお、
半島のキリスト教徒とイスラーム教徒の戦いは
場所と形を変えて継続していた事になりますね...。

それでは次回をお楽しみに♪

初稿公開日:2015年10月5日

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投稿者: FotoMikiko

スペインに在住していたプロフェッショナル・フォトグラファー。主に風景を中心に撮影。ブログでは、メインテーマの「スペインに残るイスラームの歴史文化」に関するほか、旅や自然風景の話題をお届けしています。また「アート・フォトグラフィー」の販売を行っております。お気軽にコンタクトフォームにてお問い合わせください。

「第17話 陽気な町「ビジャホジョサ」 」への2件のフィードバック

  1. 今回は脳みそを空っぽにして順々と読み辿っていくという物語で楽しいものでした。最初はカラフルな建物のペンキは何年ごとに塗り替えるのかなとか考えたりしていましたが、お祭りはすごい、この町の人たちはこのお祭りのために一年を過ごしているのかなと感じました。歴史を辿れば凄惨な武力による略奪の繰り返しだったのがいまや底抜けに楽しいフェスティバルそれも大規模で全員参加のお祭りですから,やってくれましたという感じで楽しむことができました。それと、IPAでの受賞おめでとうございました。これからも楽しませてください。

  2. ビジャホジャサの豪快な祭典、臨場感たっぷりのお写真と文章で楽しみました。カディスも海賊との闘いの歴史がありますが、このような盛大なお祭りはありません。比較的早いうちにモーロ人たちの町はキリスト教徒たちに奪還されてしまったからでしょうか。海賊も英国人たちでしたし。また、大西洋に面したカディスと、地中海に直接面する地方との違いでしょうか、ずいぶん雰囲気が違うように思われます。こういうお祭りが各地で一年を通していくつもあるスペインではやはり自分の町への思い入れが大きく、人々がしっかり地に足をつけて生活しているのですね。あ、レンズの件、双眼鏡か何かを使用なさったのでしょうか。丸い縁取りが望遠鏡で覗いているような劇的な効果がありますね。そしてIPA受賞、おめでとうございます。セビーリャのお写真は、ストーミーな空と建物のコラボ、といった風で、繊細かつダイナミックな細密画を見るような印象をもちました。これからも素晴らしいお写真を拝見するのを楽しみにしております。たくさんのお写真、ありがとうございました。

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